World of Warcraft: 年末スペシャル「Morbent Felを倒せ」その4

Roland's Doom からの逃亡劇を乗り切った後に,私は Sven という男性が経営する農場の納屋の中に隠れていた. 納屋で数日間暮らしていたが,恐怖のあまり Sven や彼の家族には決して顔を合わせようとはしなかった.しかし,私の隠れていた納屋から見ていただけでも,Sven と彼の家族が真面目で誠実な人々であることは感じていた.私がすべてを打ち明けたとしたら,彼らは私を迎え入れてくれたかもしれない.しかし,その時の私には,他人を信用することができなかった.まだ鉱山でうけたショックから立ち直れていなかったのだ.

そのため,私は納屋に隠れたまま過ごしていた.そして,そのことが再び私を生き延びさせることとなった.

私が納屋で暮らし始めた数日後に,Sven は農場をあとにして Darkshire に出かけていった.彼は妻にキスし,子供たちに微笑んで,おもちゃと菓子を買ってすぐに帰ると約束していた.哀れな男だ.それは,彼が家族の無事な姿をみた最後の時だった.

少なくとも,その時の彼らは幸福に包まれながら別れを告げていた.そして、少なくとも彼の妻は最初に殺されたので,彼女の子供が虐殺されることを見る不幸からは解放されていた.しかし,これらのわずかな慰めは,私には何の救いも与えてはくれない.私は農場で何が起こったかを見てしまった.そしてその惨劇の様子は,私の夢に繰り返し現れることだろう.

今,その夜の詳細を書こうとする私の手は震えている.Sven は遠方に出かけてしまったとき,彼の家族だけが Black Rider の前に晒されるように運命づけられてしまった.Deadwind Pass からやって来た fiend らに私が立ち向かっていればと思うと,再び後悔の念にかきむしられてやまない.だが,それは偽りの後悔だ.悲劇からの生存者は,誰しも同じような後悔の念に苦しめるのだ.たとえ私が隠れていた場所から飛び出したとしても,奴らに裂かれて原型をとどめないほどに砕かれ,私の一部であっただろう無残な肉片を辺り一帯にまき散らされていただけだろう.

しかし,たとえそうだとしても,私がこの凶悪な殺人を食い止めることを何ひとつしなかったことは確かだ.本当に後悔されてやまない.私は Sven の農場に Black Rider を呼び込んでしまったのだ.鎌を見つけたことは,Duskwood に Worgen を呼び寄せただけではなかったのだ.奴らを呼び寄せたと同時に,Deadwind Pass から Rider を呼び出してしまった.

奴らが虐殺を始める直前に,Sven の妻に対し,奴らはひとつの質問をした.彼女は死を確信していたようだが,彼女は子供を近くに抱えることで,できるだけ子供たちの恐怖をやわらげようと懸命になっているのが,私にはよくわかった.

Rider のうちの一匹が,硬い研ぎ石で斧を研磨するときのような,甲高い金切り声をあげた.奴は言った

「Elune の鎌」

それはまるで,恐ろしい叫び声で相手を窒息させようとするかのようだった.

私はその身の毛のよだつ声を聞いたとき,例えようもない恐怖が私の体を鷲掴みにした.私は Rider が発した「鎌」という単語の意味するものを知っていた.何日か前に Roland's Doom で見つけた,あの呪わしいものを思い浮かべた.まさに,それこそは Black Rider が探し求めたものだったのだ!

そしてまさにこのとき,Sven の家族が死から逃れ得ないだろうと思ったのだ,

私は Sven の妻の名前を知らない.彼女は,今までに夫と子供から「最愛の人」「私の愛」,または「ママ」とだけ呼ばれていたからだ.しかし,そのとき私は彼女の名前を知りたいと思った.あの日の彼女の行動は,一生忘れることはできないだろう.彼女はただの農業者の妻ではあったが,あれほどの勇気がある人間をこれまでに一度も見たことはない.

無論,彼女は鎌のことは知らなかった.しかし,Rider が鎌を探していることを知った時、すぐさまひとつの策が彼女の頭で作られたようだった.その策は大胆で,なおかつ賢明なものだった.それが有効に働きさえしたら,事態は少しはよくなっていただろう.

「鎌ですって?」と,彼女は穏やかな声で言った.「もちろん知ってますよ.誰が知らないもんですか.」彼女は,声を発した Rider を凝視した.もし私が何もしらずにこの言葉を聞いていれば,彼女が本当のことを言っていたと信じたに違いない.それほどまでに,彼女の演技は真に迫っていた.しかし,実際には彼女が鎌に関する知識を得る方法は全くなかったのだ.

彼女の策略はうまく行ったようだった.質問を発した Rider は,彼女のほうにわずかにに頭を曲げて悲鳴のような声で言った.

「どこだ」

「そこまであなた方を連れて行きますよ」と彼女は言った.そのとき私は,わずかな望みが彼女の目の奥で揺らめいているのを見た.

「しかし,その場所はかなり遠いのです.私の子供を連れていけば,足手まといになるでしょう.子供たちはここに置いていきます.」

(その5に続く)