World of Warcraft: 年末スペシャル「Morbent Felを倒せ」その5

彼女の策略は単純なものだったが,仕掛けが単純なほど成功する望みも高くなる.この策略がうまくいけば,農場から Rider はいなくなるだろう.彼女は死んでしまうだろうが,彼女の子供は助かるに違いない.Rider が彼女の高貴な偽りを信じさえすれば,この策略はうまくいくはずだ.

私はそれまで信心というものは全くなかったが,彼女が醜悪な Rider と対峙している,このときばかりは,猛然と Sven の妻の策が成功することを祈った.

私は祈った.彼らが信じることを.

Rider はその場に立ちつくしていた.そして,彼女は静かに彼らの凝視を受けていた.ふとそのとき,1人の Rider が,どこからかやってくる声を聞くかのように,空のほうを見上げた.その Rider は装備の内側から小さい宝石を取りだし,それをじっと見ていた. そして,Sven の妻に向かって何かを身振りをした.すると,Rider の手から何か白い光が発生して,その光が妻のほうへと向かっていった.彼女はひるまなずに光をじっと見つめていたが,わずかに彼女の心の中に不安の影が映るのが見えた.Rider の手が彼女に届くと,その指で彼女の頭を引きよせた.

そして,いきなり指で頭を絞りあげたのだ.

Sven の妻は,まるで板のように硬直した状態になり,彼女の目は大きく見開かれた.彼女の唇は悲鳴をあげようと動いたものの,音は全く出てこなかった.この拷問が行われると彼女はひざを落とし,Rider はその手を離した.その時,宝石のような石を持っていた Rider は彼の体をまっすぐにして座りなおした.そして,大声で言ったのだ.

「この女は嘘をついた.こいつは鎌を見ていない」

このセリフは,私の心に深い傷跡を残した.

その直後に,まるで気が抜けたかのように Rider の肩が下がった.そして…そして,悲鳴のような声で,すべての終わりを告げる残酷な言葉が発せられた.

「主は言った.やつらを殺せ.」

私は,この次に起こったことを書くことができない.何が起こったか,私の心の中には深く刻み込まれているが,この私の卑劣な精神をもってしても,この後に起こった出来事を紙に記すことはできない.あまりにも惨い瞬間だった.

Sven の家族が殺されたと書くことが,私にできる精一杯のことだ.そして、この事件が起こったすぐ後に,Sven はこの悲劇の現場に戻ったのだ.深い悲しみに襲われる彼を見て,私は彼に見つかることを強く恐れた.案の定,彼は私を見つけたようだった.私はあまりの恐ろしさに納屋から逃げだしたのだ.Sven が今どこにいるかは分からない.しかし,私は彼がいつか平穏な日々を取り戻せることを切に願っている.

その後の数週間は,私は Rider への恐怖のために各地を転々としていた.そして今,私は Raven Hill の人気のない町に隠れ住んでいる.私は,奴らが Sven の妻に対して使ったどんな力にも対抗するすべがない.そして,奴らが鎌を探すために Duskwood 中を捜しまわっていることも知っている.鎌は私からすべてを奪っていった.私は遠からず見つけられるだろう.こうしていても,いずれ見つかるに違いない.

私は疲れてしまった.」

最終話に続く)